February 12, 2005

草間弥生展。

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2002年に刊行された自伝『無限の網』のなかで草間はこう述べている。


  あたまのなかにはあれもやりたい、これもやりたいというさまざまな
想いがあって、それが順番もなくウワーッと動き回っている。そして、
限られた時間の中でそれらをひとつひとつ具現化していくことしかない。
  この頃は、ものごとに夢中になればなるほど、月日の経つのがジェット
機のように感じられる。一日一日が、これほど貴重なものに思えるとい
うことは、年をとってきたからである。私は十代の頃から、月日の経つ
のをくやしがって、気があせるほどにも自分の不勉強を責めた。
  十代の頃のあわただしさに比べて、今は何ということだろう。茫然とし
てしまうくらい、未来の時間の重みがひしひしと感じられ、芸術の展望
の大きさに胸のつまる思いがする。時よ、待ってくれ。私はもっとよい
仕事がしたいのだ。もっと表現したいことが、絵や彫刻の中にいっぱい
あるのだ。なのに時は秒刻をきざみ、地球は寸時も廻ることを止めはし
ない。


今年76歳。遠い人だ。

ただ私たち凡人でも、こんな気持ちは分からないでもない。ただ焦るばかりで何も手につかないか、その思いのままにひたすら行為し続けるか、そこにはっきりした違いがあるだけで。
1985年刊行の『クリストファー男娼窟』のラストに表現される光景は、彼女のあらゆる活動の、ある意味原点であるような気がしてならない。


  彼女の息は止まった。やっぱり、肉体は空間から消失していた。ヤン
  ニーはバルコニーの手すりにかけよって、下界を見下ろした。
   ミルク色の靄の中にひとつ。黒い点が落ちていく。
   点は見る見る小さく、一層小粒になって、靄に吸い込まれて見えな
  くなっていく。
   すると血のような真紅の果実を啄んでいた黒い烏たちが、一せいに
  空中に舞い上がると、天国を背にして輪をえがき地をめがけて黒点を
  追っていった。


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この記事へのコメント
あ、初めまして。私たちの、南方楽園にコメントくださってありがとうございます!
私は草間弥生展を見て、ゲーテのファウストを思い出しました。「時間よ止まれ」と言ったら魂を持っていって構わないと言ったファウストのその心境を思いました。
Posted by みね at February 13, 2005 01:12