テイラー・ハックフォード、ジェイミー・フォックス。
少年時代、幼い弟が洗濯用の金盥の中で溺死していくのを目前にしながら立ち竦んでいるばかりでどうすることもできなかった鮮やかすぎる光景をトラウマにして、フラッシュバックする光景への恐怖から逃れようあがきながらスターダムをのし上がっていったレイ・チャールズ。
その呪縛をひとときの間忘れるためだけに浸かるヘロイン中毒の泥沼から抜け出すことができたのは、赦しを請うたからだった、というのも皮肉な話だ。
作家伊集院静が少年時代に海で幼い弟を溺死させてしまったことへの赦しを、「書き続ける」ことで請うているけど、人の生は案外そういうものなのかもしれない。
勇気を持つことができるかできないかの違いがあるだけで。
盲目であるからこそ、レイ・チャールズの原点である南部の光景は強烈で美しく、それがまたせつなくさせる。