June 21, 2004

『バーバー』コーエン兄弟。

このモノクロの質感はなんと云ったらいいのでしょう、もう驚異的で、個人的にはジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を初めて観たときの衝撃を超えています。
ジャームッシュの場合どちらかというと80年代後半のサブカルチャー爛熟後の退廃した時代の雰囲気の中でざらっとした反逆児的な光芒を放っていたものですが(それだけに際立つリアリズムを皮膚に感じたものです)、コーエン兄弟の場合扱う時代背景は古いけど、逆にもうべったりと今の時代と一緒に寝ているのですね。隅々までくっきりとピントを合わせていながらどこか柔らかく有機的で、生命を持った白磁の器を思わせてそれは美しく、自分の意志とは裏腹に死への歯車をどうすることもできずただ傍観しているばかりの主人公(ビリー・ボブ・ソーントン)の意識をさらりと上滑りしていく水のようなフィルム。意識の滋養になることなどなく、ほんのわずかの粘度をもってゆきわたり、そして跡も残さず消えていく水。一見親密だけれど、いっさいは移ろいやすく非情で、立ち止まって何ひとつ思うこともなくただ事実を受け入れていく時代に、とてもよく似合う水。
つたなくベートーベンを弾くスカーレット・ヨハンソン(『ロスト・イン・トランスレーション』)という存在のエロい気怠さも絶品で、コーエンの意図を加速させています。
だからこそ "the man who wasn't there" という原題、そのまま使えば良かったのに、としみじみ思います。

梅雨のこの時季にええもん観してもらいました(笑)

cinema topics online より

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