November 29, 2004

『停電の夜に』

lahiri.jpgジュンパ・ラヒリ。
ロンドン生まれの、ニューヨーク在住インド系(一世)作家。
このデビュー短編集『停電の夜に』でいきなり2000年のピュリツアー賞をとったことが話題になったけど、そんなアメリカの賞なんて別にどうでもいい。
実はまだ4篇しか読んでいないのですが、もう、堪能して堪能して。池澤夏樹氏は「どの短篇も人と人との隙間の話なんだけれど、具体的なエピソードを重ねて、その隙間の部分を実にうまく描写している」と評しています。

「女性らしい細やかさ」とはよく使われる言いまわしですが、そうは言わなくても、男性作家にはとても書けないよなあと思える文章。この神経の行き届き方、登場人物それぞれにどんな些細なことにも珠玉の意味がこもっているそのうまさ。ミニマリズムの手法に学んだのかなと思えますが、あそこまでクールではない。特別大きなドラマがあるわけでもなく、淡々と掬いあげる日常のそこかしこに潜むかすかな悲哀とか希望とか諦観といったものが、さらりと、本当に丁寧に描き出されています。意図したものであることは確かで、でも意図した結果だとはとても思えないさりげなさ。

まだ4篇ですが、『ピルザダさんが食事にきたころ』が強烈に印象に残っています。インド・パキスタン紛争を背景にしてアメリカに住むひとりのインド系少女の成長を回想形式で描いているのですが、ラストのそれこそ淡々とした切なさは勇気と、だれでも人生のうちで一度は焦がれるほど強く思うはずのものを伝えます。それが何なのかここでは書けませんが、僕が思いだしたのは映画『ディアハンター』のラストシーンでした。

もともとこの短編集は新潮社クレストブックスシリーズ(ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』が爆発的話題になった)で出ていて、昨年文庫化されました。このシリーズからラヒリの続編、といっても今度はかなりの長編ですが、『その名にちなんで』が今年の夏に出ていて、こちらも楽しみ。

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この記事へのコメント
トラバありがとうございます。
『停電の夜』はインド系移民の話ということで馴染めない部分もあったのですが、『その名にちなんで』は文句なしに楽しめました。『停電の夜』も再読すれば印象が違ってくるだろうと思います。
Posted by カワイルカ at November 30, 2004 10:16
コメント&トラバありがとうございました。
クレストブックスのシリーズはどれも評判いいみたいですね。
これから少しずつ読んでいこうと思っています。
Posted by Mlle.C at December 01, 2004 22:18
はじめまして。
書いてらっしゃる“ひとのすきま”という言葉にどきん、としてTBさせていただきました。
私はまだ実は表題の『停電の夜に』しかよんでいないのですが、好きになってしまいそうです。
『その名にちなんで』も読みたい!
Posted by クロエ at August 10, 2005 11:32
>クロエさま
はじめまして。
最後に掲載されている短篇が一番印象に残っています。
はやく次の短編集が読みたいですね。
Posted by kiku at August 10, 2005 22:24